第39回毎日農業記録賞 《講評》


大澤貫寿・中央審査委員長

東日本大震災で農業が深刻な打撃を受ける中、1000編を超える応募がありました。作品の水準も高く、読み応えがありました。特に高校生部門は800編を超え、一つ一つが農業や自分の将来を真剣に見つめた作品で、興味深く読ませてもらいました。

一般部門で中央審査委員長賞に選んだのは鈴木郁馬さんです。不動産開発会社で農地転用に関わり、農業に関心を持って27歳で就農しました。縁あって住み着いた土地ではありますが、その地の文化や行事を引き継ぐことの大切さを認識し、地域貢献に取り組む姿は他の見本となるものです。新規就農大賞とダブル受賞となりました。

81歳の渡辺光子さんは、家計簿に残したメモを基に「足跡」を振り返りました。「秋晴れや働き居れば心足り」と表わし、農の働く喜びにあふれています。野口弘子さんは、ハトムギを使ったジェラートで成功しました。酪農への愛情を感じます。桜井勝子さんは、都市農業の生き残りを体験農園で図っています。農業に懸ける意志が表れています。町職員として農業に関わった田中滋子さんは、役場を辞めて農業を応援する活動を続ける選択をしました。地域を何とかしなければと思う気持ちが伝わりました。三原典子さんは、女性が農機具を運転するのが珍しい時代に免許を取りました。その行動力は、審査会で話題になりました。

高校生部門では、命の重みを見つめた作品に感動的な作品がありました。加藤里佳さんは、自分たちの育てた和牛が食肉処理される現場に足を運びました。肉も味わい、食物となる牛への感謝を学ぼうとする姿に感銘を受けました。福島美月さんも、学校の牛が感染症で死亡し解剖に立ち会いました。動物の命の尊さと感謝の心を学び、「繁殖の仕事に就きたい」と夢を語っています。

田中智也さんは、イチゴ作りをする祖父に納豆菌を使った減農薬栽培を提案するなど、新しいことへのやる気を感じました。渡邉有沙さんは、母の経営改革に、自分も参加する夢を語っています。障害者も雇用できるような農作業改革を考える姿勢に共感しました。雫陽香さんは、ぬか漬けを研究。松澤志歩さんは、世界に一つだけの品種の山桜を守る研究を紹介しました。また、稲吉佐由理さんは、特産のそうめんを利用した新商品を開発した一員でした。どれも熱心な勉強ぶりがうかがえました。

熊木理恵さんは、祖母の梅干しの味を守ろうと研究しました。商品として販売する意気込みを感じました。松元雄さんは、畜産家の祖父の一言から、グリセリンで牛糞の堆肥化を早める研究に取り組みました。自ら農に関わる姿勢が感じられました。

被災者の作品も寄せられ、津波で自宅が流されながらも酪農を学ぶ佐藤駿さんと、校舎が津波で使えなくなった宮城県農業高のチームに特別賞を贈ることになりました。

日本の農業は現在危機的な状況にあります。応募作を通し、これまで日本農業を支えてきた農業者の自負心や、農業に新しい未来を見出して取り組む若者の意欲に触れて、日本農業の再生を強く感じることが出来ました。(東京農業大学学長)

中央審査委員

第2次中央審査委員

  • 大澤 貫寿・東京農業大学学長(中央審査委員長)
  • 冨士 重夫・全国農業協同組合中央会専務理事
  • 古谷 周三・農林中央金庫専務理事
  • 見城美枝子・青森大学社会学部教授
  • 花野 耕一・全国農業高等学校長協会理事長
  • 河野 俊史・毎日新聞社取締役編集編成担当(毎日農業記録賞運営委員長)

第1次中央審査委員

  • 福園 昭宏・全国農業協同組合中央会広報部長
  • 椎名 宏行・全国農業協同組合連合会広報部長
  • 木村 吉男・農林中央金庫広報企画室長
  • 田中 広幸・全国共済農業協同組合連合会広報部長
  • 岡本 利隆・全国農業高等学校長協会副理事長
  • 吉野 理佳・毎日新聞東京本社地方部長
  • 鴨志田公男・同北海道報道部長
  • 笹子  靖・同中部報道センター室長
  • 北川創一郎・同大阪本社地方部長
  • 野沢 俊司・同西部本社編集局次長兼報道部長

(敬称略、順不同)

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