第40回毎日農業記録賞《講評》


農業者の誇りと命をつなぐ農業に魅せられた   大澤貫寿・中央審査委員長

農業が昨年の東日本大震災によって大きな打撃を受け、その再生に取り組んでいるなかで970編を超える応募がありました。作品の水準が高く読み応えがありました。今回の作品の特徴は、従来よりも食の加工や販売などに関する様々な取り組みが多かった。一般部門では、農業一筋に取り組んでこられた家族の生き方、特に女性のたくましさに感動させられました。高校生部門は750編を超え、農業の詳細に夢を託し、今できることを考え行動する若者の姿に頼もしさを感じました。将来への強いメッセ-ジを織り込んだ作品ばかりでした。

一般部門で中央審査委員長賞に選んだ黒岩真由美さんの作品は、バラ農家として失敗を繰り返しながらも、周囲の人々と助け合い共に農業に誇りをもって、地域の活性化一筋に取り組んだ、命を育む農業の大切さを見事に表現した作品でした。多田喜一郎さんは、限界集落といわれる農村で、地域最初の農家民宿を始め、多くの仲間を巻き込んで集落の活性化に取り組み、今後の限界集落のあり方を示しました。新規就農大賞の高野寛子さんは、高校時代に体験したリンゴ農家での作業から、生き方を真剣に考えリンゴ農家に嫁ぎ、若い時の夢の実現を果たしました。斉藤登さんは、原発事故の風評被害にさらされている福島の農家のために、ネット販売を通して安全な農産物の配送や首都圏での小売りを行い、熱い思いが伝わる作品となっています。

高校生部門では、後継者としての思いを綴った作品と生き物の命の大切さを真剣に考え、農業にかける夢への挑戦が多かった。堀口達矢さんは、梅農家として父のあとを継いでいくためには、今何をすべきかを自ら考えて、梅の樹勢回復プロジェクトを実行していきます。梅の苗木が他の産地からの導入であることに気づき、自ら苗木の栽培生産に取り組む姿に頼もしさを感じました。梅の木一本一本にまつわる家代々と自らの思い、家族の絆がよく伝わってきます。三沢拓也さんは、循環型農業による複合経営に取り組み、様々な特産品をつくりだし、その販売にも取り組もうとする姿は、農業後継者としての熱い思いの伝わる力作です。山内美砂さんは、特産スモモのうち廃棄される「はねだし」を加工した様々なスイーツを作り、多くの人に喜んでもらえるまでがよく描かれています。谷沢端希さんは讃岐コ-チンのブランド化に取り組み、試行錯誤を重ねて様々な人に相談しコロッケとして販売し評判を得るまで、地元への思いが強く感じられます。上田悠さんは、地元の生産物の食品加工の会社を立ち上げ、様々な人の協力を得て経営を学んでいく姿に大きな夢があります。他の作品も食と農への思いが綴られた力作ばかりでした。

日本の農業は大変厳しい状況にあります。このようななか、農業を愛し日本の農業を支えてきた農業者の農への誇りと、農業に挑戦し新しい農業に未来を託そうとする若者の姿にふれて、日本農業の再生を強く感じとることができました。(東京農業大学学長)

審査委員

第2次中央審査委員

  • 大澤貫寿・東京農業大学学長
  • 冨士重夫・全国農業協同組合中央会専務理事
  • 髙橋則広・農林中央金庫専務理事
  • 見城美枝子・青森大学社会学部教授
  • 花野耕一・全国農業高等学校長協会理事長
  • 岸本卓也・毎日新聞社常務執行役員編集編成担当

第1次中央審査委員

  • 福園昭宏・全国農業協同組合中央会広報部長
  • 北里清和・全国農業協同組合連合会広報部長
  • 木村吉男・農林中央金庫広報企画室長
  • 加賀尚彦・全国共済農業協同組合連合会広報部長
  • 岡本利隆・全国農業高等学校長協会副理事長
  • 大坪信剛・毎日新聞東京本社地方部長
  • 松田秀敏・同大阪本社地方部長
  • 野沢俊司・同西部本社編集局次長兼報道部長
  • 笹子靖・同中部報道センター室長
  • 山科武司・同北海道報道部長

(敬称略、順不同)

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