第41回毎日農業記録賞《講評》
いのちを耕す農業者に感謝 大澤貫寿・中央審査委員長
東日本大震災から2年が経過したが、農業の復興はまだまだの状況下だ。今年の投稿は1161編だったが、新規就農し生産とともに加工、販売までの6次化に取り組み、地域のために活躍する印象に残った作品が多かった。若い高校生は、生命に向き合うこと、そして地域農業への強い思いが伝わる力作ばかりだった。
一般部門・中央審査委員長賞の望月玉代さんは若くして登山家の夫を亡くした。その故郷で安全なヒラタケ栽培に精を出し、地域の特産品に育て上げるまでの熱い思いの伝わる作品だ。月井美好さんは芳醇(ほうじゅん)でコクのある乳製品を作り、安全で顔の見える酪農に取り組んでいる。小池美与志さんは、戦後から一貫してブドウとナシ栽培を手がけ、高品質栽培法に取り組み広く地域に貢献している。
高博子さんは夫と能登島で週1000円の生活から出発。失敗を恐れず今は300種類のハーブと野菜を栽培している。その農への思いに感動した。特別賞の山根正博さんは東日本大震災で津波の被害を受けた畜舎、農場などの再生と復興に生徒とともに取り組んだ。
高校生部門・中央審査委員長賞の渡邊賢也君は、生まれたばかりの子牛の管理を任された。さまざまな試練を乗り越えて出荷まで、牛1頭から生命を学ぶ作品だった。杉本和生君は、お茶農家の後継者として栽培に取り組みながら将来の産地形成を目指している。渡辺一美さんは、車いすで農作業に仲間とともに積極的に取り組みながら、将来と農業を自分の目線で考えている。水野宏紀君は廃棄チーズを有機肥料として改良し、おいしいトマト栽培にたどりつくまでの土作りの大切さを描いている。
日本の農業を取り巻く環境は厳しく、農家の高齢化やTPP(太平洋パートナーシップ協定)問題など大きなハードルがある。しかし、新しい農業を創造しながら挑戦していく農業者と明るい未来を農業に託す若者に、日本農業の新たな姿を見ることができた。(東京農業大学理事長)
審査委員
第2次中央審査委員
- 大澤貫寿・東京農業大学理事長
- 冨士重夫・全国農業協同組合中央会専務理事
- 高橋則広・農林中央金庫専務理事
- 見城美枝子・青森大学社会学部教授
- 岡本利隆・全国農業高等学校長協会理事長
- 吉野理佳・毎日新聞東京本社編集編成局次長
第1次中央審査委員
- 福園昭宏・全国農業協同組合中央会広報部長
- 北里清和・全国農業協同組合連合会広報部長
- 木村吉男・農林中央金庫広報企画室長
- 高橋豊・全国共済農業協同組合連合会事業広報室長
- 塚本昭彦・全国農業高等学校長協会副理事長
- 本橋由紀・毎日新聞東京本社地方部長
- 松田秀敏・同大阪本社地方部長
- 松藤幸之輔・同西部本社報道部長
- 小出禎樹・同中部報道センター室長
- 山科武司・同北海道支社報道部長
(敬称略、順不同)
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