第42回毎日農業記録賞《講評》
すがすがしい農業者 大澤貫寿・中央審査委員長
一般部門、高校生部門の作品とも真剣に農業と向き合い、心に響く作品ばかりだった。
一般部門・中央委審査委員長賞の栢森基宏さんは、新潟での会社勤めをやめ妻の実家、松山で就農した。野菜作りに打ち込み、就農12年目に最愛の妻を亡くしたが、寂しさを乗り越え農業振興に努めている。新規就農大賞の豊田昌昭さんは精密機械製造会社を経営していたが、定年退職者の受け皿としてブルーベリー園を開設し、農業経営と加工品作りで、雇用の確保と地域活性化に貢献している。
村上豊子さんは東日本大震災4カ月前に三陸の広田半島に工房を開設したが、津波で全てを失ってしまった。持ち前の行動力で、仲間と共に再度工房を始め、地元生産物を加工・販売している。地域活性化への思いに感動する。 金丸洋子さんは夫とともに3万本の葉タバコ栽培に二人三脚で取り組んできたが、夫が病気となり葉タバコ栽培は限界だと思った時、息子が俺が継ぐと言ってくれて安堵(あんど)した。夫への思い、家族への愛に満ちた心に響く感動作である。
高校生部門・中央審査委員長賞の今井優成さんは、青ネギの生産地の農家に生まれ、祖父と父の農作業する姿を見て育ち、将来は、農家レストランの経営を夢みている。関根翼さんは、洋ラン農家に生まれ、後を継ごうと思っていた矢先、突然の大雪で、ビニールハウスが全壊し、不安な思いを味わうが、周囲の人とのつながりで立ち直り、日本一の洋ラン農家になることを目指している。 奨励賞の花木真理さんは、種子島特産の「安納いも」の生産農家に生まれ、消費者の好みに合わせたイモの栽培法を考えている。特産品を守りたいとの思いが伝わってくる、良い作品である。
日本農業を取り巻く環境は、高齢化や後継者問題など依然として厳しい状況にあるが、今回の多くの作品に見られたように、新規に就農し、新しい農業を創造していく農業者と未来を農業に託す若者に、日本農業の力強さを感じた。 (東京農業大学理事長)
審査委員
第2次中央審査委員
- 大澤貫寿・東京農業大学理事長=審査委員長
谷口肇・全国農業協同組合中央会常務理事
大竹和彦・農林中央金庫常務理事
見城美枝子・青森大学社会学部教授
岡本利隆・全国農業高等学校長協会理事長
吉野理佳・毎日新聞東京本社編集編成局次長
第1次中央審査委員
- 樋口直樹・全国農業協同組合中央会広報部長
北里清和・全国農業協同組合連合会広報部長
木村吉弥・農林中央金庫広報担当部長
高橋豊・全国共済農業協同組合連合会事業広報室長
徳田安伸・全国農業高等学校長協会副理事長
本橋由紀・毎日新聞東京本社地方部長
山内雅史・同大阪本社地方部長
松藤幸之輔・同西部本社報道部長
小出禎樹・同中部報道センター室長
山科武司・同北海道報道部長
(敬称略、順不同)
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