《高校生部門》優秀賞・中央審査委員長賞・全文 毎日農業記録賞


ふるさとの誇りを守れ~地域と連携した黒大豆プロジェクト~–佐野哲さん(17)

祖父母の手伝いで黒大豆栽培に興味

「ブラックダイヤモンド」とも呼ばれる黒大豆。丹波篠山産は大粒で旨味(うまみ)や芳香、もちもちとした食感で評価は高く、枝豆やお正月の縁起物として重宝されています。ここ丹波篠山の地でのみ、本来の姿を得ることができる丹波黒は、私が住む丹波篠山が全国に誇る特産です。私は、ここ丹波篠山に生まれ、祖父母の農業を手伝い、黒大豆栽培に興味があり、地元の農業高校である兵庫県立篠山産業高等学校東雲校に入学しました。そして、農業を学ぶことになりました。

2年生からは特産バイテク類型を選択し、本格的に黒大豆栽培を学び、地域の栽培講習会等へも参加するようになりました。そして、地域の現状を知り、ショックを受けました。それは、近年、発芽直後の生育不良や立ち枯れ性病害の増加、変異種の発現により生産コスト増加や収量の減少、品質低下が深刻な問題となっていることです。そして、北海道や岡山県での生産量増加に伴い、食の安全や品質向上、生産コスト削減は、特産地として大きな課題となっていることです。このままでは黒大豆発祥の地、丹波篠山の大きな看板でもある丹波黒大豆が栽培されなくなっていくのでは、という危機感が私の中に芽生えました。私たち農業高校生ができることはないものかと考え、同じ特産バイテク類型で学んでいる友人と共に地域からの依頼を受け、「よりよい丹波黒大豆栽培をめざす」プロジェクト活動を開始しました。

 
トラクターと佐野さん
 

私たちのプロジェクトの活動目的は「セル育苗における、発芽勢向上と生産コストの削減」「変異種調査と遺伝資源確保への取り組み」「立ち枯れ性病害、特に黒根腐れ病への対策」という以上の3点で高校生の研究・開発した「栽培技術を地域の農家へ普及していきたい」という計画のもと、課題研究や農業クラブのプロジェクト活動で研究に取り組みました。

「ほんに、かなんにぃ」。2007(平成19)年6月、発芽勢の悪さに農家が悲鳴を上げた。もともと3割の苗を捨てるほど育苗効率が悪い上に、発芽時の低温が苗の立ち上がりを悪化させました。そこで、地域からの依頼を受け、セル育苗における発芽勢向上と生産コストの削減に取り組みました。現在、篠山市内ではセル育苗による移植栽培が主流で、「へそを下に向け播種(はしゅ)を行う」という技術指導が行われています。使用する128穴セルトレイのセルの大きさは縦・横ともに3㌢です。黒大豆は播種後、吸水して縦2.5㌢、横2.0㌢に膨らみ、トレイとの接触が原因で苗の立ち上がりが遅れ、生育がばらつき、約3割の苗を無駄にしていることがわかりました。

〝発芽勢〟の向上と変異種調査で成果

そこで私たちは種子の向きに着目し、子葉を効率よく持ち上げるように工夫を行いました。数回の実験により、へそを横に向けることで播種後5日目に苗の立ち上がりが揃(そろ)い、現行の播種方法より1日早く、ほぼすべての苗が立ち上がりました。芽が揃うことで、10㌃あたり15枚準備していたセルトレイも11枚程度となり、生産コストや労力を3割削減することに成功しました。さらに胚軸の長さが揃うことで、定植時の作業効率アップにつながりました。

「黒豆の中に、白くなったものがあるんやに~。東雲校で研究してくれへんかの~」という地域特産物マイスター山本博一さんの依頼。ここから始まった黒大豆の変異種調査は、2年間の栽培を通じて黄、緑、茶、黒という種皮色へ分離しました。さらに生育調査や収量調査により、小粒化や減収につながることがわかりました。同時に食味試験も行い、丹波黒特有の旨味や芳香、もちもちとした食感が失われアントシアニンがないこともわかりました。

黒豆を持つ佐野さん

今回、神戸大学や弘前大学、兵庫県立農林水産総合技術センターより種皮の遺伝のしくみを学び、戻し交雑などの手法を用いて分析を行い、「変異種の発生は黄大豆との交雑であること」を明らかにしました。さらに、交雑種同士の他家受粉も2%程度見受けられ、自家受粉である大豆の交雑を発見しました。さらに篠山市内の丹波黒と黄大豆栽培面積の推移を調査し、わずかな黄大豆栽培によって、交雑種が随所で発生していることがわかりました。生産農家への聞き取り調査でも、約9割の農家が過去に種皮色が違う交雑種を発見し、出荷時の選別作業で取り除いていることを知りました。しかし、種皮の黒い交雑種は出荷されてしまい、品質低下を招いている現状が明らかになりました。

これらの結果について、農家での技術指導や記者発表、神戸大学などで研究成果を発表しました。播種方法については栽培農家から「手軽で簡単な方法」として注目を集め、多くの栽培農家で実践され、「揃ったよい苗ができた」と感謝の言葉をいただきました。篠山農業改良普及センターからも発芽勢の向上が見られるとして、高い評価をいただき、今までの栽培方法の根底を揺るがす大発見と地域特産物マイスター細見俊昭さんも大絶賛で、産地への普及の手応えを感じました。また、変異種調査については栽培農家の興味を引き出し、研究機関からは高い評価を得ました。さらに、学校祭や農業フォーラムなどで展示や講習会を開催したところ、多くの方々が出席され、感謝のお手紙を頂くなど地域住民の興味、関心も高いことがわかりました。

そして、08年の6月。これらの取り組みが評価され、立ち枯れ性病害対策プロジェクトに参画することになりました。このプロジェクトでは、黒根腐れ病の病原菌に拮抗(きっこう)性を示し、土着菌であるトリコデルマ菌を用いて立ち枯れ性病害の抑制をめざしています。現地実験の結果、その効果は確かなものであると証明されています。そこで私たちは、トリコデルマ菌に特許をもつ独立行政法人農業・食品産業技術総合研究機構中央農業総合研究センターと研究協定を結び、地域の関連機関と連携して菌の増殖と資材の開発に取り組んでいます。

まず、バイオテクノロジーの技術を用いて菌の増殖をすることに成功しました。次に労力をかけず畑に菌を投入する手段として元肥のたい肥に添加する方法を検討しました。私たちは、そのたい肥を機能性たい肥と命名しました。多くの資材の中から低コストで手に入りやすく、処理に困っているもみ殻に注目し、比較実験からもみ殻を有効に利用した菌種の生産に成功しました。低コストで余分な労力を必要としない導入法の開発に向け、一歩前進しました。現在、地域の協力を得て、たい肥への混和と繁殖に取りかかっています。機能性たい肥が効果的であれば、10㌃あたり生産コスト1000円増加に対し、収益3万円増加が見込まれるため、地域の期待も高まっています。

私たちが研究に取り組んだことを基礎に、いずれは東雲校を中心とした機能性たい肥の供給システムを確立したいです。そして、農薬を減らした安全で安心な品質の高い黒大豆生産にむけ、資材開発と技術の普及をめざします。

三つの研究成果で近畿大会の優秀賞に

この1年間の研究成果は三つあります。一つめは、手軽で効果的な技術で苗生産のコストと労力の大幅な削減に成功したことです。二つめは、黄大豆の発現は交雑が原因で品質低下につながることを突き止め、成果として地域に発表できたことです。三つめは、立ち枯れ性病害対策プロジェクトに参画し、トリコデルマ菌の繁殖ともみ殻を用いた機能性たい肥の菌種開発に成功し、地域の期待が高まり、よりよい丹波黒大豆栽培に向けた取り組みに発展したことです。また、大学や研究機関、そして、特産物マイスターをはじめとする生産農家の方々と相互的な連携を通じて、よりよい黒大豆栽培をめざす技術開発に向けた取り組みができたことです。

研究する佐野さん

これらの研究成果をまとめ学校農業クラブ連盟大会で発表を行い、兵庫県大会で最優秀賞、近畿大会で優秀賞を受賞し、多くの場で認められました。東雲校を中心に農家が作りやすく、商品価値を向上できる、魅力ある特産栽培をめざした技術開発を行うことで、特産地を活性化したいと考えています。農家でのインターンシップやプロジェクト活動でお世話になった方々にわずかながら恩返しができ、丹波篠山の黒大豆の栽培にも貢献できたのではないかと考えています。今後は後輩たちに引き継ぎ、私たちのやり残したことを完成させてほしいと思います。

特産黒大豆栽培で日本一目指したい

私の高校3年間は、地元の農家から多くのことを学びました。農業のことだけではなく、人生経験などのお話を聞くことで大きく成長できました。ものの見方や考え方まで大きく変わり、自らの人生を左右するほど大切な経験ができました。農業高校での学習は基礎基本が中心ですが、「自分たちで何とかしたい」という気持ちから同じ志を持つ仲間と共にプロジェクト活動に取り組むことで、ここまでできたと思います。高校生がここまでやっていいのかなと思うこともありましたが、毎日コツコツとできることを取り組んだ結果が、農業改良普及センターの農業改良普及員の方や大学と研究センターの先生方から認められる活動となりました。そして、この活動を通じて「地域に学び、地域に返す」ことができたことが一番うれしかったです。

祖父母の農業の手伝いから始まり、農業に興味をもち、さらに農業高校での取り組みを通じて、やはり私は農業が好きなんだということが改めてわかりました。そして、農業をもっと学びたいと考えるようになりました。高校卒業後は東京農業大学へ進学し、最新の農業技術を学び、さらに知識を深めたいです。将来は祖父母の後を継いで特産栽培農家として、黒大豆栽培を生涯の生業としたいです。

丹波篠山は特産の宝庫とも言われるぐらい多くの秋の味覚があります。その一翼を担い、今度は「地域を支える人材」として地域農業の発展に寄与できればと考えています。「大好きな丹波篠山の黒大豆を作って、日本一の黒大豆農家をめざす」、それが育ててくれた地域や人々への恩返しであり、私の目標です。

さの・てつ
農業を営む祖父宅で育ち、幼少期に就農の夢をはぐくむ。1学年1クラスの兵庫県立篠山産業高校東雲校で特産品振興を研究。軟式テニス部でも活躍した。「ごはんCUP2008」(JA全中主催)「ファーム系」の優勝メンバーの一人。

篠山産業高校東雲校 http://www.hyogo-c.ed.jp/~shinonome-ahs/

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