第39回毎日農業記録賞 《一般部門》優秀賞①
専業農家になった私、2011夏に思うこと
宍戸美喜子さん(53)=福島県伊達市
昨年4月、29年間の教師生活を終え、早期退職した夫とともに家業の専業農家を継いだ。今年は「農」を支える土が、信じられない汚され方をしてしまった。出荷するはずだった梅は廃棄した。幸い桃は出荷できるようになったものの大暴落。それでも立派なものができ、「おいしい」の言葉をもらった。こういう声がこれからの私たちを支えると気づいた。人生に誇りが持てる幸せをかみしめ、前を向いて歩んでいく。
ししど・みきこ
中学校の美術教師から10年、夫と本格的に農業を始めた。趣味の絵で、各地の美術展に出品するなど、精力的に活動している。
嬬恋のキャベツ畑。ちょんき嫁がいく
松本もとみさん(47)=群馬県嬬恋村
東京出身。バブル期で就職も売り手市場の中、農家の長男と結婚した。30代後半、学生時代の友人達が働く姿に焦りを感じ、一念発起してインターネットや講演会、通信教育で農業の勉強を始めた。都会の人に農業のことを伝えたくなり、消費者交流や農業体験を企画開催するようになった。活動の母体として、同じ志を持つ農家の主婦10人でボランティアグループを結成。農家に嫁いで良かったと思っている。
まつもと・もとみ
村の活性化を目指し、農家の女性10人で「おちょんきねっと」を結成。食育活動など幅広く活動している。「ちょんき」は方言で「生意気」。
地域から世界へ~農業10年で築けたこと
大越正章さん(30)=新潟市西蒲区
農業が大嫌いだったが、チューリップ栽培を手伝い、一斉に芽が出る光景に感動。農業人生が始まった。3年が過ぎたころ、自分の米に自信が持て、自分で値段をつけて販売したいと思い、営業活動をスタートさせた。客の声も直接に聞け、要望に応えて今では年間20品目以上の野菜も栽培している。つらいことを乗り越えられたのは4Hクラブの仲間がいたから。全国4Hクラブ会長として地域から世界へ向け頑張りたい。
おおこし・まさふみ
11年から会員約1万3000人の「全国農業青年クラブ連絡協議会」会長。季刊誌「大越農園」を創刊した。
八ケ岳のたからもの
八木千恵子さん(63)=山梨県北杜市
高齢の両親と同居するため55歳で山梨県に来た。ハローワークで農業大学校の社会人向け訓練コースを見つけ入校。農業を始めた。近隣のホテルやレストランと取引をし、人が作らない珍しい野菜を栽培するようになると注文が増えた。普及指導員に勧められ、イタリアン料理に使う野菜などを栽培して流通を広げるというトライアル事業に挑戦。研究会を設置し流通業者にも参加を呼びかけた。プライドを持った農業を若い人に伝えたい。
やぎ・ちえこ
川崎市出身。ホームヘルパー1級の資格を持つ。05年に自宅横の畑で「こまち農園」を開園し、農業を始めた。
炭焼きを通して見るこの国の未来のかたち
鶴岡一生さん(43)=長野県上田市
炭焼きの技術は、今、教わらなければ、失われるだろう。こんな話を聞き、友人と炭焼きの会を発足。2人の師匠を迎えて習っている。こうした山仕事が、いかに環境保全に貢献していたのかを初めて知ることができた。独特の風土に根ざした自然と文化は世界に誇れるものだと思う。こうした日本古来の炭焼き、ひいては農業を考えることは、この国の新しい未来を模索する上で、大きな手がかりになるのではないか。
つるおか・かずお
農業に従事する傍ら、武石炭人会(http://sumibito.seesaa.net/)を設立。炭焼き技術の保存に取り組んでいる。