第42回毎日農業記録賞《高校生部門》優秀賞・中央審査委員長賞


牧石青ネギで地域を元気に

今井 優成さん=岡山県立高松農業高校1年

牧石青ネギで地域を元気に 今井 優成さん=岡山県立高松農業高校1年
「食味」「香り」「食感」と三拍子揃ったうどんやラーメンに欠かせない食材が岡山県岡山市牧石地区で生産されています。メインを引き立てる名脇役、その名は「牧石青ネギ」です。

私の家は岡山市街より北に3km、県の中央を流れる旭川に隣接する自然豊かな牧石地区にあります。旭川にかかる中原橋を歩いているとほんのり青ネギの香りが風に乗って感じられます。牧石地区の特産品の1つである青ネギの栽培を、今から30年前に祖父が本格的に始めました。現在は祖父母と両親と私の五人で作業を行っており作付面積は1.5haです。周辺の農家の方々は、30年前まで個々に野菜を栽培し市場に出荷していました。しかし、青ネギの栽培に適した水はけの良い砂地であること、また豊富な地下水に恵まれており、飲料水として使用できるほど澄んだ水をふんだんに使うことができることから青ネギの栽培に切り替えました。良質な水を適切に与えることで、「シャキッ」とした食感が楽しめ、鮮度を長く持続する青ネギに仕上がります。このように栽培に適した環境から、今では組合員総出荷量は年間600tにのぼり、関西・中国市場を中心に出荷しています。

牧石地区には26戸の青ネギ農家がありますが、その中でも私の家は常に1位・2位を争う量を出荷しています。そのため、年間総出荷量は40tに及び、出荷最盛期には1日に350kgもの選別作業を行います。出荷作業で最も時間を要するこの選別作業は1日に16時間も座り続けることもあり、腰に負担がかかるとても大変な作業です。

私は少しでも力になれたらと思い、小学生の頃から祖父の指導を受け、中学生の頃には1日に6000本のネギを7等級に分けることができるようになりました。座ったままで行う長時間の単純作業は気が狂いそうになります。しかし、大きさがバラバラだった青ネギたちが同じ大きさの束になり、エメラルドの宝石のように鮮やかで美しい緑に輝く光景をみると達成感でいっぱいになります。青ネギは播種から収穫まで、夏場は約60日、春、秋は約90日の時間を要し、管理がとても大変な野菜です。消費者の方に最も美味しそうだと思ってもらえる葉色に仕上げるためにも、追肥のタイミングはとても重要です。祖父が青ネギ栽培を始めた頃は上手くいかず、質の良い青ネギを出荷できないこともあり、長い経験の中で身についた勘が必要だと祖父から聞きました。

中学2年生の時には青ネギの競りがどのように行われているのか疑問に思い、祖父と共に岡山市中央卸市場に競りの見学に行きました。そこで、競りを担当している方からお話を聞くことができました。「牧石青ネギはいつも品質がええな~、でも最近は前ほど競りに活気がなくなってきてしもうて」と言われました。その時は、本当にその通りだと思いました。今、考えてみると、30年前は800円していたキロ単価が現在では500円程度の価格にまで下がってしまっています。競りに活気がなくなってきていたのは、スーパーが産地と直接契約をすることによる市場取引量の減少や企業の参入による生産量の増加により、過剰供給が起こっていることを示す黄信号だったのだと思いました。

さらに不安なこともあります。近年の異常気象により品質が安定しないことです。私の家は昨年、台風の影響で収穫直前の青ネギたちが株元から倒れ品質の低下が危ぶまれました。私が心配になり畑に行くと「がんばってくれよ」と声が聞こえてきます。そこで私が見たのは、祖父がネギたちに声をかけながら、元通りに起こしている姿でした。祖父は人生をかけた青ネギ畑で最期を迎えたいと言っています。祖父は心臓病と糖尿病の持病から入退院を繰り返し、今度倒れたらもう助からないと医師に言われました。父はその畑を守るためにサラリーマンをやめ祖父と共に青ネギ栽培を始めました。白かった父の肌が今では黒く焼け、野菜と接する目は輝いて感じられます。私は、父の思いと祖父のプロとしての野菜への愛情を感じ、農業高校生として頑張ろうと決意を新たにしています。

私が農業に興味を持ちだしたのは幼稚園の頃でした。幼稚園の卒園文集には「じいじといっしょにねぎをつくりたい」と書いてあります。しかし、この頃はまだ幼く、何の気なしに考えていた私。小学校の高学年になると勉強を頑張って小学校の先生になりたいという夢も考えるようになりました。当時の私には、2つとも実現させたい夢でした。このことを、担任の先生に相談すると「夢が沢山あるってことは本当に素晴らしいことなんだよ。今は、広い視野を持っていろいろな出会いや経験を通して沢山の知識を得ることが大切だ」と答えてくれました。 そんな私に転機をもたらしたのは、中学1年生の時にたまたま見た新聞に入っていた1枚の広告でした。そこには「野菜・米・加工品の出品者さん大募集、出品者説明会を開催」と書かれており、すぐに私は両親に相談にいきました。「こんな広告があったんだけど、おじいちゃんみたいにおいしい野菜を作って出荷してみたい」と話しました。すると「出品者説明会があるんだったら、お父さんと行ってきたら」と母が言ってくれ参加することになりました。

直売所の担当者の方が「過疎化するこの御津町を少しでも元気にして、活気づけたい。この地域に1人でも多くの人に足を運んでいただくきっかけを作り、素晴らしさを感じてほしいんだ。そのためにも、皆さんのお力をお借りして私たちと一緒に魅力ある直売所を作り上げていきましょう」とおっしゃいました。この言葉の力強さに感銘を受け、元気な地域づくりのお手伝いができたらと思い、出荷することを決めました。直売所は岡山県の山間部に位置し、地域の活性化のシンボルとなっていくとの希望を込め「みつの里」と名付けられました。この出来事をきっかけに、祖父は私に10㌃ほどの畑をくれました。私は、今までに葉物野菜を中心にミニトマトや白トウモロコシ、ホウレンソウなど年間100種類以上の野菜を栽培しており、週1回出荷を行っています。出荷を行うための収穫や調整作業は深夜2時までかかることもあり大変です。多品目の野菜栽培のため、手間と時間を要し、勉強や部活もあり非常に忙しい毎日です。しかし、直売所に行くと私の野菜を心待ちにしてくださっているお客さんがいてくださいます。私は、この直売を通してお客さんの本音が聴けることが、とても重要だと強く感じています。この直売所は「もっとこうしたほうが良い野菜なる」や「この食べ方のほうがこの野菜はおいしい」など生産者や消費者の方から多くのことを教わる場になっています。最初はいろいろな野菜を栽培することが楽しいだけでした。しかし、最近では、多品目の野菜を栽培することが、自然災害のリスクを分散し経営の安定につながるのではと考えるようになりました。

さらに、本校の農業科学科で経営の学習をする中で、模擬会社を設立して、生産物や加工品に商標登録のシールを貼りブランド力を高めていることや、ポップを作成していることにヒントを得て、直売所で試食品の提供や調理レシピの紹介をしてみました。現在ではリピーターを増やすことに成功し、月に1000袋前後の販売ができるまでになりました。高校生が作った野菜として人気もあり、レストランの方にも購入していただけるようになりました。

どんな野菜を出荷するとお客さんに喜んでいただけるだろうかと日々思考をめぐらし、私は栽培計画を立てています。理想的な経営が青ネギだけで可能なのかというと多くの不安があります。将来、経営を安定させるにはどんな野菜を取り入れるべきなのかと考えていた時、「山ホウレンソウ」という野菜に可能性を感じました。私が夏場、葉物の栽培が難しくなる時期に栽培している野菜で、暑さに強く、食味もホウレンソウに似ているのが特徴です。ホウレンソウの価格が上がる時期に栽培できるので、収入の安定が見込めると考えています。引き続き、栽培することで生産効率とコストを調査していきたいと思います。

私には農業について学ぶ中で新たな夢ができました。それは地域の牧石青ネギ組合員と協力して会社を立ち上げ、採れたて野菜を使用した料理を提供するレストランを併設した農業体験型のテーマパークを開くことです。山に囲まれた空気の澄んだ最高の環境で私達が栽培した多品目野菜の収穫体験をしてもらい、その食材の長所を生かした調理法で食べてもらう。風味豊かで野菜本来の味が楽しめるそんな料理を提供したいと思っています。もし、季節が冬なら「定番の鍋などいかがでしょうか」、ここで名脇役の登場、宣伝です。「私達の一番の自信作、牧石青ネギの味はどうですか?」そんな農業体験を通じて顧客の心をつかみたい。さらに播種や管理作業の体験、ネギキムチ作りなどを盛り込んだプランの提案ができると面白いのではないか。そして、農業テーマパークのそばに、カットネギの包装施設を造ることで、販路の拡大、価格の安定、雇用も確保したいと夢を膨らませています。

夢を夢のまま終わらせないために、私は大学に進み、近年の異常気象に対応できる耐暑性野菜の研究をしたいと考えています。さらに、牧石地区の農業の発展のため、地域財産のさらなる有効活用について学びたいと思っています。そして、農業を中心に地域が元気になるような会社の運営を目指します。農業が人々を心から幸せにできる、そんな希望に満ちあふれた職業であることを証明するために。私は祖父と父のあとを継ぎ、農業後継者として、組合員と協力して地域の発展を目指して頑張っていきたいと思います。

いまい・ゆうせい

両親と小学生の妹2人の5人家族。4歳のころ、近くに住む祖父、津田勲さん(68)の畑作業を手伝い始め、中学1年生からコールラビなどの野菜を一人で育てた。「農業に特化した学校に」と高松農高に進み、郷土芸能部で和太鼓も練習中。在学中に野菜ソムリエの資格取得を目指している。

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