第46回毎日農業記録賞《一般部門》最優秀賞・中央審査委員長賞


つなぐということ~中山間地域からの情報発信~

吉村 忠保さん=高知市

 私の住む土佐山地域は高知市の最北端に位置する中山間地域であり、林野率が90%近いことからほとんど平地がありません。そのなかでユズとハウス園芸等を組み合わせた複合経営を行っている農家がほとんどを占めています。

 我が家も水稲40アール、ユズ40アール、露地野菜40アール、施設が10アールという複合経営で、ユズはほぼ全量をJAに出荷しています。このような中山間地域では、ユズと複合的に行う栽培品目の選択にどの農家でも頭を悩ませます。そんな中、我が家の経営の特徴は、ハウス施設内で「エディブルフラワー」を栽培していることです。

 「エディブルフラワー」を知っていますか? 「エディブルフラワー」とは食べられる花のことです。日本でも古来、「食用菊」であったり、菜の花をおひたしにしたりといった文化がありますが、「エディブルフラワー」は欧米の文化や考え方を取り入れたものを指します。

 ナスタチウムやパンジー、ひまわりなど種類は豊富で、野菜と同じように食用として栽培することでケーキやサラダの彩りとして用いられることも多く、最近ではマスコミでも取り上げられるようになりました。

 全国的にも少しずつ栽培する農家が増え、私のところにも全国から視察が訪れるようになりました。日本エディブルフラワー協会も活動を開始しています。

 私が「エディブルフラワー」と出会ったのは今から7年前、それまで栽培していた「促成シシトウ」を断念した頃でした。資材の高騰や祖母の介護に追われる中で従来どおりの経営を続けることが困難となり、思い切って経営作目を変更しました。現在の直売所をメインとした販売に切り替えたのですが、複合的な農業として「何を栽培するか」「どういう販売をするべきか」について本当に悩んでいた頃でした。

 高知市が主催する「農商工連携セミナー」に参加した時に「エディブルフラワー」の存在を知りました。「きれいやし、流行るかも」という直感と、女性にもてるかもという思いから興味を持ちました。「花ならば収穫した後も次から次へと収穫できるので少ない面積でも売り上げが上がるかもしれん」と希望を抱きました。

 すでに栽培していた県内の事業所へ通い、栽培や収穫、調整方法を教えていただき、自分でもさらなる研究を行いながら試験栽培を始めました。

 「エディブルフラワー」にはほとんど登録農薬がありません。そもそも食用としての花なので、できる限り農薬使用を控える必要もあります。そこで以前に「促成シシトウ」栽培を行っていた時の技術と経験が役に立ちました。シシトウでの病害虫の防除には、IPM(総合的病害虫管理)を活用することにより、ほとんど化学農薬を使用していませんでした。「エディブルフラワー」にも天敵昆虫の利用などで栽培がうまくいきました。当然最初は苦労しましたが、栽培がうまくいきハウスの中に色とりどりの花が咲き広がり、とてもきれいでした。

 栽培はうまくいきましたが、全く売れません。まだまだ知名度が低くそもそも「花が食べれるがかえ?」と聞かれるばかり。栽培はできても売ることに関しては素人で直売所に持っていっては、持って帰ることの繰り返しの日々でした。

 「これではダメだ!」という思いで、販路開拓のセミナーや商談会など出られるものにはできる限り出席し、そこで出会う人達との交流を深めていき、商工会にも加入しました。農業関係の仲間だけでなく、商工業の社長さんといったこれまでとは違った分野の方々と出会えるのは大変貴重なものでした。私はそんな多くの方々とのご縁を大切に考えるようになりました。次第にさまざまな方々から気にかけていただけるようになり、また、興味を示していただけるようにもなりました。そういった機会の中でできた「人とのつながり」を大切にすることで、「エディブルフラワー」の部門も少しずつ動き始めました。

 今から4年ほど前、私事ではありますが結婚することとなりました。「エディブルフラワー」にとってもそれが一つの転機となりました。結婚してすぐ妻から「ちまちま作りよってもいかん。もっと植えるで!」と気合いを入れられ、栽培面積を徐々に拡大していきました。

 私自身は以前からフェイスブックを利用して情報発信を行ってきましたが、さらに妻がインスタグラムまで取り入れて、妻のセンスで「よしむら農園」と銘打った我が家からの情報発信量は格段に増えました。このことは一つの発見であり、妻のおかげで「女性が農業へ参画することの重要性」に気付かされることとなりました。

 一般的に男性よりも女性の方が食材に触れる機会は多く、飲食店などの料理も女性客をターゲットにしたものが多いと思います。そのため女性の視点を農業に取り入れることは、女性が喜ぶポイントや女性ならではのセンスが生かされることとなり、そこは私の力が及ばないところです。ですから情報発信の面にしても妻の工夫やアイデアは大きな助けとなりました。

 このことに気付いた私はさらに妻を我が家の農業経営に参画させるべきだと考え、国の農業女子プロジェクトにも参加させました。以降、全国各地で開催される展示商談会へは夫婦そろって参加するよう努めました。

 「日本エディブルフラワー協会」の立ち上げに参加したことをきっかけに、協会会員とのつながりも強まり、その後、協会が行うイベントにも積極的に参加しました。そこでも引き続きよしむら農園からの情報発信を欠かさず行っていくことで、テレビやラジオへの出演依頼をいただき、農業新聞でも取り上げていただけるようになりました。

 おかげさまで、高知でエディブルフラワーといえば「よしむら農園」というイメージが少しずつ定着してきたのではないかという実感と、「エディブルフラワー」の知名度も徐々に上がってきたことを実感しています。

 持って行っては持って帰ることを日々繰り返していた直売所でも販売は順調に伸びてきています。全農こうちが運営する高知市の直売所「とさのさと」内では専用の売り場を設けていただくようになり、問い合わせがあれば「とさのさと」で実際の商品を見ていただいています。

 現在、私はJA高知市とさのさと出荷者協議会の会長を務めさせていただいています。「とさのさと」と生産者の皆様をつなぐお手伝いをさせていただく役目はここでもまた人とのつながりを結ぶこととなり、さらに多方面の方々と交流できる機会に恵まれています。

 振り返ってみると「エディブルフラワー」の販路にしても、直売所での販売や協議会の活動にしても、一人の力では限界がありました。「エディブルフラワー」を経営に取り入れたことから、人とのつながりのおかげで多くのことが成り立っていることに気付かされました。

 中山間地域での農業の大変さは全国共通の課題としてまだまだ残っています。私は人とのつながりの大切さについて学んだことを生かし、地元地域内での情報交換や地域を挙げた情報発信を積極的に続け、中山間地域でもつながり続ける農業を目指していきたいと思います。

 「つながりが生まれれば価値が生まれる、この価値を大切に」。そんな思いでこれからの毎日を過ごしていきます。

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