第50回毎日農業記録賞《高校生部門》優秀賞


ジビエで地元を活性化!!!

岩手県立遠野緑峰高1年、菊池康成

 晴れた夕方。猟師に連れられて、シカ猟を見た。解体作業を目の当たりにするのは初めてだった。あこがれを感じた。猟師は「命をくれる動物たちに、ただ感謝の気持ちしかない」と言った。幼いころからシカ肉を食べた。岩手では獣害問題だ。自分の高校でも、先生たちが悩む。ジビエを学ぶため、大槌町の「MOMIJI」を見学した。町は「獣害を街の財産に」をスローガンに、シカ肉で地域を活性化させているが、遠野市では放射性物質の影響で肉は廃棄物処理されている。装飾品などを作っている人はいるので、ブランドにすれば新産業になるのではないだろうか。高校の研究で、猟師の後継問題を考えている。猟師の育成を視野に、一般の人に猟に同行してもらうプロジェクトの実施を提案する。

地大豆が拓(ひら)く新しい扉

栃木県立那須拓陽高3年、西岡桃

 入学式の後、先生から「地大豆を育て加工品作りをする『SOYプロジェクト』を一緒にやらないか」と誘われたのがきっかけ。学校農場のほか、地域の耕作放棄地を活用して環境保全農業を実践。持続可能な社会の形成に貢献している。大豆を納豆に加工した場合、豆のまま販売するより5倍の収益が上がる。豆腐作りを通じて、貴重な品種の「存亡」を考えるきっかけになった。収穫した大豆を全校生徒と先生に育ててもらい、SNS投稿してもらった。プランターを添えて、小中学校などに配った。実行委員長になった大豆の収穫祭ではマルシェを開催し、近県からの参加もあった。大豆を大切に育てることが、人と人をつなげるネットワークを築いていくことになるとは、考えてもいなかった。

消費者との距離が近い肥育農家~レストランを架け橋に~

大阪府立農芸高3年、豊岡然(ぜん)

 消費者との距離が近い肥育農家になることが夢だ。祖父と祖母は200頭ほどの黒毛和牛を肥育、肉屋も営んでいたが現在は80頭に減らし、店もたたんだ。祖父の思いは消費者に届いているのか。肥育農家の声を消費者に届けるのはむずかしいことを畜産の授業で感じた。高校のブランド牛肉販売のプロジェクトで、焼き肉店に1頭購入してもらい、自家製の発酵飼料で飼育したと説明した。「安心して食べられる」と言ってもらえた。シェフと交流することで、お客さんの声を聞くことができる。食肉処理場を見学した。解体を行う人がいなければ肉を食べることはできない。命について考えさせられた。「レストランを架け橋」にして、思いやこだわりを届ける肥育農家になりたい。

しょっつるで解決! 地域の食文化の継承と外来種問題

秋田県立金足農業高3年、田澤春空(はるく)

 秋田の環境保全と創造のために何ができるのだろうか。課題研究の授業で班の仲間と話し合った。外来種ブラックバスの活用をテーマにした。しょっつるは日本3大魚醬(ぎょしょう)の一つで、主な原料はハタハタと塩だ。ブラックバスでの製造も可能だと考えた。男鹿市の老舗の指導で、仕込みの練習をした。魚はミンチではなくブツ切りにし、こうじの代わりに酵素剤を加えると発酵が早く進むことを聞いた。トビウオとブラックバスで仕込みをした。熟成・観察をし、安全で簡単な作り方をSNSやメディアで広めていきたい。ハタハタの漁獲減少で「伝統文化が忘れられてしまうのが一番怖い」と聞く。新たな付加価値の創出が食文化の継承につながる。

東京から発信する高校生の農業~高校生だからできること~

東京都立瑞穂農芸高3年、森咲菜

 「東京に農業高校なんてあるんだ」。福岡の親戚の言葉だ。「またエサの値段が上がった」という先生の言葉から、飼料に関する考え方が変わった。先輩たちの研究から「エコフィールド」の存在を知る。食料廃棄物などの未利用資源を利用した飼料で、経費を抑えられる。地域の酒造会社や菓子店、農家などから原料を調達。育てている黒豚は脂肪がつきやすいので、ビールかすを多く入れてTDN(可消化養分総量)を下げた。ビールかすは年間60㌧あった廃棄量がゼロに、製麺クズも月1トンが400キロに減り、卵殻はゴミだったものを全てなくすことができた。「東京でこんな取り組みをしているなんて初めて聞いたよ」という声を聞き、目標が少し達成できたのではと、実感した。

発掘!埋蔵資源!!

兵庫県立農業高3年、高地真穂

 「えっ、同じトマトでも全然違う。すごい」。品種の違いを初めて知り、興味を持った。農業雑誌の種子交換ページで種を入手して栽培し、観察記録をつけた。「神様ではなく人が生み出しているんだ」と、農業を生命科学の視点から学ぶ進路を探した。地域の在来作物の種子を農家に分けてもらい、発芽研究をするうち、兵庫県花のノジギクに興味をもった。キクは肥料食いで、農家の負担になっていることを知る。アミノ酸サプリの効用を利用できないかと考えた。水産廃棄物から魚のアミノ酸を抽出し、在来土壌微生物を元気にして肥料の効果を高める実用化検証を始めた。硝酸態窒素、リン酸、カリウムで、すべてプラスの結果がでた。「おさかなサプリ」を散布したノジギクは健全な生育を続けている。

私が挑戦するサトイモの超促成栽培 今、山形のサトイモ生産が変わる!

山形県立村山産業高2年、村山美夏

 夏に食べた芋煮のまずさ。この戸惑いが、研究のきっかけだ。班では、多くの県民がサトイモを食べたくなるという8月上旬に収穫するため、超促成栽培に取り組んでいる。通常より1カ月以上早く育苗したサトイモを畑に植え、トンネル資材で厳重に保温した。とろっとした食感のサトイモができ、3倍の価格で販売できたが、一方で、保温管理の仕事が農家の負担につながることが分かった。三つのプランを考案した。種芋の保存性の向上と株間の再検討、保温のため毎日必要だったトンネル開閉作業の改善だ。スイカ栽培の裾換気のアイデアを活用し、10アール当たり77時間の労力削減を実現した。収量は1.6倍、所得率も15%増える。

サシバエに教えられたこと

神奈川県立相原高3年、金子凜

 中3の時、文化祭で食べたフランクフルトともつ煮込みに「高校生が一から命を育ててこんなにおいしいものができるなんて」と感動し、入学を決めた。畜産部牛プロジェクトに入部。衛生害虫について学ぶ。サシバエに吸血された牛は牛白血病などの病気を起こし、畜産経営に大きな影響を与える。殺虫剤は悪影響がある。白い牧草ロールにサシバエがたくさん集まっているのを目撃し、色によって吸血する個体を選んでいるのではと考えた。黒毛和種をシマウマのような模様にすれば吸血を抑制できるとの仮説を立て、実際に模様を描いて忌避効果を試し、サシバエの飛来を半分以下にすることに成功した。さまざまな生物の能力を利用することで、人々の暮らしを豊かにできるのではないかと考えている。

僕の身近な後継者問題

徳島県立城西高2年、徳元悠惺

 藍住町は洋ニンジンの全国有数の産地。高齢の祖母を助けるつもりで野菜栽培を実習している。「ばあちゃんの大切な親友、けいちゃんを助けてあげて」と祖母に言われた。けいちゃんは10年前に夫を亡くしニンジン畑を守ってきたが、膝が悪く、収穫はできないという。祖母の真剣な言葉に納得した。ビニールハウスの解体でパイプ10本を肩で運んだ。身長が1ミリずつ縮む思いだった。収穫は泥まみれ。中腰での箱詰めで、腰が曲がったおじいちゃんになった気分だった。規格外で出荷できないニンジンの多さにショックを受けた。けいちゃんは人集めに頭を抱えている。若い担い手が必要だ。今夏、フォークリフトの免許を取った。来春の収穫作業のために、同級生をスカウトした。

祖父から受け継ぐ村の宝物

福島県立修明高3年、白坂光太郎

 12月下旬、祖父と市場へ行く。白い「美人」が並んでいる。ナガイモだ。祖父は昭和50年代に鮫川村でウド農家として成功した。福島市の農家と農業試験場の職員から、栽培技術とタネを分けてほしいと持ちかけられた。「代わりにナガイモのタネと栽培技術や販売を教えてくんねいがい」。以来約35年、根菜類を広く栽培している。切りイモから種イモを作る。追肥は茎から離れたところに有機肥料で行うことで、常温でも傷みにくいナガイモになる。さらっとした後味だ。自分も学校でナガイモ栽培を研究している。福島原発事故以降、祖父は土を反転させて放射線量を下げるなど試行錯誤を繰り返し、震災前の水準まで生産を回復させた。今後の農業にはSDGsの視点が必要だ。

安全な食の伝道師を目指して

石川県立翠星高2年、平田歩美

 食品科学研究会は6次産業化のモデルとして、開発・製造、販売・ブランド化を行っている。2019年からHACCP(危害要因分析・重要管理点)の導入に向けた取り組みを開始。HACCPは21年から全ての食品等事業者に義務づけられた。1960年代に米国で生まれた衛生管理手法で、製造の全工程でどのようにチェック・記録するかを自分たちで考えなければならない。対応に苦慮する地域農家や企業の事業継続が困難になるのでは、と考え、支援のための「翠星HACCPスクールツアー」をスタート。相談者の専用プランを作成し、県内外の企業や農業高、日本食品衛生協会の指導員からも参加があった。相手が求めているレベルを理解しなければ失敗する。寄り添って考えるコンサルタントが食品業界には必要だ。

入賞者一覧に戻る

顕彰のイベント一覧へ

顕彰