第51回毎日農業記録賞《高校生部門》優秀賞・中央審査委員長賞


シマミミズによる我が家のシン・農業革命
副題・シマミミズによる生ごみの地産地循

愛知県立安城農林高2年、永谷友和さん

飼育するシマミミズを手にする永谷友和さん。発生する糞土を取り出し、堆肥として利用する方法を研究している=愛知県安城市の安城農林高校で11月9日、町田結子撮影

 「土によってこんなに味が変わるのか」。これは、実験で育てられた二十日大根を試食した際に思わず出た言葉です。この実験は、シマミミズと培養土を異なる四つの比率で混合し、それらを使用して二十日大根を育てるというものでした。驚いたのは、糞土の割合が高いものほど味わいが濃く、酸味や甘みのはっきりとした違いを感じられたからです。この驚きと共に、「土についてもっと知りたい」という興味が湧き、学校の授業に加えて土壌に関する研究を行う土壌研究班のプロジェクトに参加し、有志の仲間と共に活動しています。

ミミズは残渣を分解

 このプロジェクトは、トマトの栽培時に発生する茎や根などを有効活用するため、有機物の分解を得意とするシマミミズにそれらの残渣を与え、発生する糞土を取り出してとして利用する方法について研究しています。ミミズは、残渣を分解し、土中に窒素や炭素を増やすだけでなく、作物に吸収されやすい形のカルシウム・マグネシウム・カリ・リン酸も増加させます。海外ではこの糞土を「黄金の土」と呼ぶほど、作物の成長促進や団粒構造の形成や陽イオン交換容量の向上など、肥料の効果的な利用に寄与することが確認されています。

 私の家は、しめ縄作りと、花や野菜の苗を生産する専業農家です。我が家の苗は枯れにくく、丈夫であるとの評判を得ており、毎年完売しています。私が学んだ小、中学校にも、我が家の苗が納品され、花壇の花や野菜が長期間枯れずに多くの人たちを楽しませる様子を見て誇りに思いました。同時に、家業を継ぎたいという思いが強くなり、安城農林高校への入学を決意しました。

 我が家の喫緊の課題は資材の値上がりです。この課題への対処策として、枯れにくい丈夫な苗の生産や、学校や地域のお客様への直接販売などの工夫をしています。ですが、父はそれでも不十分だと言います。この答えを見つけるため、私はミミズ糞土の利用を研究のテーマにしました。

 このテーマを選んだ理由は三つあり、一つめは、残渣由来のミミズ糞土を用いることで購入資材のコストを減らすことができる。二つめは、ミミズ糞土の性質はより良質な苗の生産につながる。三つめは、花壇苗の需要拡大につながる新たな栽培法や管理法を開発できると感じたからです。

耐水性団粒構造の土へ

 最初にミミズ糞土と一般的な牛糞堆肥との比較実験を行いました。ミミズ糞土は炭素含量が高いため、雨にも干ばつにも耐える耐水性団粒構造の土へと変わります。ミミズ糞土を乾燥させ、固まった状態のものを容器の中の水に入れると、激しく振っても塊は崩れず、6カ月以上水に漬けても形を保つなど、雨による土の流亡に強いことがわかりました。

 干ばつに対しての実験も行いました。土に水を与えず乾燥した状態でミミズ糞土に植えられたトマトは、市販の培養土に比べ1週間以上長く耐えました。そのうちの1本を引き抜いてみると、細かな根がまるで土に残る水分を探すかのようにガッチリと土を抱え、隙間を埋めていました。これらのことを目の当たりにし、より丈夫な苗の生産や購入資材の代替として使えると確信しました。

 次に、需要拡大につながる栽培法のアイデアを見つけました。それは、安城市の公民館でミミズの飼育法や糞土の利用について説明する機会をいただいたことでした。公民館の職員の方から「うちの花壇は花を植えてもすぐ枯れるし、種をまいても芽が出てこない。どうしたらいいのだろう」と相談を受けました。花壇の土を確認すると、砂を多く含む一般的にやせた土と言われるものでした。

 私は、粘土団子という手法でアフリカの砂漠化が進む地域で緑を取り戻すという活動を思い出しました。粘土に植物の種を入れ丸めて乾燥させたものを、砂漠化が進行している土地に投げてする、というものです。この手法を応用し、保水性と保肥性に優れるミミズの糞土で置き換えれば良いのではないかと考えました。試しにプランターに砂をいれ、その中に糞土で団子を作り、パクチーの種を付着させまきました。直接砂にまいたものより発芽率がよく、多くのパクチーを収穫することができ、糞土ならではの「より枯れにくい」栽培方法を見つけることができました。

 ミミズ糞土の安定的な確保の方法についても見つけることができました。それは、公民館で受講下さった飲食店のオーナーから、コーヒーの残渣の処分について相談を受けたことです。コーヒーの残渣は、シマミミズのすみかの床材や餌として使うことができます。この事をオーナーに伝えると、「SDGsの達成に貢献できるなら」と、コーヒーの残渣を分別し、地域の方々へミミズの床材として配布されることになりました。自分が思っていたよりずっと多くの方が生ごみの循環を考え、堆肥化を実行されていることを知ってうれしく思いました。このような方々の協力を得ることができれば、分別された生ゴミを回収することで我が家の用土を安定的に賄えると思いました。

炭素を地中にとどめる

 生ごみの堆肥化は、社会的な課題である生ごみの処理問題の解決だけでなく、地域のつながりも作れると感じました。生ごみの焼却処分は、総重量のうち約8割を水分が占めるため、他の可燃物のゴミと比較すると環境に大きな負荷をかけています。生ごみをミミズにあたえて堆肥にすることは、生ごみに含まれる炭素を地中にとどめ、大気中の二酸化炭素を減らすことにつながります。地域の生ごみを堆肥とし、その堆肥で育てた花の苗を消費者に届けるというつながりは、物質の循環を生み出すだけでなく、地域の方々との繫がりも生み出せると思います。

 ミミズ糞土の利用についての研究を通じて家の経営改善につながることを3点見つけることができました。一つめは、地域の生ごみをミミズ糞土にし用土とすることで、資材の確保だけでなく資源の地産地循を実現できる。二つめは、丈夫な苗という付加価値だけでなく環境への負荷低減や地域の方々の繫がりを高めるという価値を作り出せる。三つめは、糞土の特性を生かした糞土団子という新たな栽培方法を見つけられたことです。

手間がかかるのが課題

 一方で、課題も数多くあります。一般家庭での生ごみのコンポスト化を推進するためには、簡単、確実に管理する方法の確立、特に悪臭や虫の発生などを抑える必要があります。生ごみを堆肥とするためには、材料代はあまりかかりませんが手間がかかります。生産性を高めコストを下げる研究が必要です。また、一定の品質の堆肥を作るためには、糞土や生ごみの受け入れ方法やルール作りなど解決すべき課題がいくつもあります。これらの課題を解決するため、これからさらに勉強し、経験を積んでいきたいと考えています。

 将来、苗の価値を高めるとともに、環境への負荷低減や堆肥づくりを通じて地域の方々の繫がりを高めるという価値を作り出し、地域の多くのお客様に喜んでいただけるよう、またSDGs達成に貢献できる農業経営を展開できるよう研究を進めていきます。

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