第53回毎日農業記録賞《高校生部門》優秀賞
粗飼料づくりから始まる末広がりの夢
3代で紡ぐ持続可能な畜産物語
宮城県農業高3年 南條匠極(なるみち)

祖父、父と3代で仙台牛を肥育している。素牛を仕入れで、予想より20万円も安く競り落とせた。相手の繁殖農家は肩を落とした。飼料の高騰と子牛価格の低迷、高齢化の三重苦で繁殖農家の不安が増す。人ごとではない。越冬した牧草は糖分を蓄えるので、家畜の成長を促すことを学んだ。高価な飼料の一部を栄養価の高い粗飼料に置き換えればコスト削減になる。良質な牧草を生産するため、3年に1度の草地の更新を毎年するよう父に提案した。重労働でも収量は5倍以上増え、地域の繁殖農家にも好評だった。良質な稲わらの生産も研究し、肝臓に負担のない和牛肥育に取り組んだ。稲作農家との耕畜連携で、「末広がり」の地域の活性化に貢献できる。
いま、エンドファイトにアツい!
山形県立村山産業高3年 鈴木実那

中3で進路選択に悩んだ。母に、近くの農業高校のマルシェに誘われ、自身の研究を真剣に話す先輩の姿にアツい思いを抱いた。高校に進み、先輩がいる農業クラブの研究班へ。出合ったのがエンドファイトだ。植物の成長を促進する微生物で、地域特産のソバと共生するエンドファイトを研究した。肥料削減にも注目されているが「実際に農家が使うという視点がなくては使えない」という地域の声を聞いた。効果を明確にすることが必要だ。野外実験で、接種によってソバの品質の指標である容積重が上がり、化学肥料や二酸化炭素の削減につながることを実証した。科学系コンテストで上位入賞し、シンガポールで開かれた国際大会で発表した。環境に優しい農業を世界に普及する人材になりたい。
このまちのグランドデザインを描く
栃木県立矢板高3年 北見大地

先輩のプロジェクト活動報告で、家畜の避難訓練の発表があった。「参加したい!」気持ちが芽生えた。研究テーマは「持続可能な畜産」で二つの活動がある。「ビーフダイバーシティー」。10年ほどで廃用牛になる母牛を自家製飼料で再肥育し、「多くの子孫を残してくれた母牛」というストーリーで商品開発や販売を行う。もう一つは「家畜の防災・減災」で、昨年の初の避難訓練では大きな反響があった。先輩からバトンを受け継ぎ、放牧牛の肉を商品化した冷凍ハンバーグはふるさと納税の返礼品に採用された。2回目の避難訓練は行政や教育機関、JA、農家と一体で取り組んだ。畜産は生産だけを担うのではなく、まちの一部分として、地域環境に大きな影響を与えることが分かってきた。
畑から、食卓へ
栃木県立真岡北陵高1年 島田知歩

この夏、親戚の梨農家で手伝いをした。最も大変だったのは直売所での接客だ。うまく話せず戸惑った。ある日、年配の女性が来られ、「遠くに住んでいる孫がここの梨が大好きなの」とうれしそうな笑顔を見せてくれた。梨はただの「商品」ではなく、誰かの思い出や愛情を運ぶ。農業がただ「食」を作る仕事だけではないことに気づいた。自然の力を借りて、人の心を豊かにする「物語」を紡ぐ仕事なのだ。もう一つの気づきは「環境」だ。今年の猛暑や突然の豪雨は梨の生育に大きな影響を与えた。母が「自然相手だから」とつぶやくのを聞き、初めて気候変動が食卓に直接つながっているのだと実感した。日々の生活の中で、「いただきます」という言葉にもっと深い感謝を込めていきたい。
守れ!じいちゃんの畑~日本一のこんにゃく農家に俺はなる~
群馬県立藤岡北高3年 木村匠

家は大正時代から続くコンニャク農家だ。中学生の頃から祖父の手伝いをし、初めての田植えで見た縦横一列にそろった稲の美しさは忘れられない。祖父は「ここでもコンニャクをよしている農家がいっぱいいる」と言った。悲しげな表情が刺さった。我が家の農地は水はけが悪く、連作による土壌の劣化が激しい。コンニャクイモは根の「くさり」が起きると伝染し、被害が出る。研究の結果、解決には土壌消毒が必須で、農薬を使わずに麦類の輪作でも病気を軽減できることが分かった。ただ、労力が要る。祖父は「試してみるか」とうれしそうに畑に出て行った。資金のために葉物の栽培強化を提案した。その土地にあったやり方で、最高のコンニャクを目指す。
君と開いた未来への希望
神奈川県立相原高3年 新明澪奈(れいな)

動物園の飼育員を目指す。養牛部の体験入部の際に黒毛和種と褐毛(あかげ)和種の交雑種である「はなまめ」に出会い、とりこになり、私の推し牛になった。活動に慣れてきた頃、出荷を経験した。牛との別れに全員涙を流した。飼料費の高騰で、飼育できる数が限られていることが分かった。必死に考えるようになった。課題研究授業で、おから飼料を与えた。国外情勢に左右されずに入手が可能で、安価だ。はなまめは25カ月で705㌔になった。出荷の日が来た。心にぽっかり穴が開いたが、感謝を伝えようと誓った。1カ月後、肉になって返ってきた。おから飼料でも肉質に影響はなく、105日間で17万円のコスト削減につながった。ブランド牛の確立と、飼料費高騰に左右されない姿を夢見ている。
多様性を愛する~水田が私に教えてくれたこと~
愛知県立佐屋高3年 佐分利優衣

「ちゃんと学校に行かないと高校に入れない」「みんなと同じことができないとダメ」。中学で口酸っぱく言う先生たちに、周りの友達は気に入られる姿に変わっていったが、自分はできなかった。地域の適応教室に通い、さまざまな年齢の人たちに出会い、違う考え方を認め合う心を学んだ。行き帰りの田んぼ道で生き物たちの姿や声を感じ、高校では水田について学ぶグリーンコースに所属。科学部の部長をしている。水田には多様な種がおり、互いに影響を与え合っている。適応教室で知った多様性の本質と一緒だ。真夏、中干しで干からびた地面に横たわるオタマジャクシを見た。人間の都合で激変する環境の中を生き物は必死に合わせている。人間も変わらなければいけない。水田は生きる勇気をくれた。
私の橙(だいだい)大作戦~岐阜の特産品をつないで商品開発~
岐阜県立岐阜農林高3年 中田朔愛(さくあ)

岐阜県瑞穂市の美江寺地区は柿の王様「富有柿」発祥の地で、歌川広重の浮世絵「みゑじ」に柿が描かれている。だが柿畑は5年間で2割も減った。後継者不足や規格外品の増加などが要因だ。規格外の柿が売れるようになればと、漬物にした。規格外品の各務原ニンジンを組み合わせ、ニンジンのほのかな苦みと柿の豊潤な甘さ、コリコリしたニンジンととろりとした柿の食感が相乗効果を生んだ。「岐阜の橙×橙漬け」と命名、漬物グランプリの学生の部でグランプリを受賞。SDGsの観点からも評価された。この商品の付加価値は橙の「色」だ。色素のβカロテンは視覚機能の向上や皮膚と粘膜の健康維持に役立つ。卒業後は加工品の普及を目指す。
蔵と田んぼと学校と
兵庫県立農業高3年 鷲野咲和(さわ)

里山を歩いて足元を見ると、神秘的なキノコがあった。菌類に興味を持った。発酵技術研究会で、日本酒の醸造実習をしている。地元の杜氏(とうじ)の下で経験を積んでいる。酒米の王様「山田錦」だが、異常気象や経済など環境の変化で消費は減少。「並行複発酵」という世界に類を見ない醸造文化が廃れてしまう。100年前に品種改良された山田錦は現代の夏に耐えられなくなっており、品種改良に取り組んだ。この活動を知った農家から「酒蔵で連携しましょう」とうれしい声が上がり、新品種の酒米を育苗、収穫した。待ちに待った純米酒の瓶詰めの日。農家や酒蔵、自分たちの願いが詰まった一本となった。今、酒米新品種の一つが実用化できるところまできた。1300年受け継がれてきた知恵を必ず届ける。
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