第48回毎日農業記録賞《高校生部門》優秀賞
高校生から始まる農業新時代
小泉麻紘(まひろ)=青森県立名久井農業高3年
1年生の時、農業用ドローンで作業簡略化に挑戦する高校の「TEAM PINE」に迎えられた。リンゴ農家の溶液受粉を研究。SDGsの考え方を取り入れ、県内のメーカーの協力で、スマート農業による地域農業活性化を目指している。近隣農家の実情を調査し、結実率の向上が課題だと知る。花粉管の伸長を促すホウ素を使った実験により、目標の結実率50%超に成功。日本学校農業クラブ東北連盟大会で成果を発表した。将来は、高校生に新しい農業の魅力と技術を伝えていく農業高校の教員になりたい。
「山林で紡ぐ命の輪
岩間ほのか=宮城県農業高3年
農高では酪農を専攻。牛のメリアは、牛舎の厄介者だった。搾乳で炎症部分を触ってしまい、蹴られて、けがをした。メリアは殺処理された。2年の夏、ニュージーランド研修に参加。動物を本来の姿で飼育する「山地酪農」を見る。メリアがここで飼育されれば生き続けることができたはずだと実感。帰国後、牛を外に出すと、えさの食い込みが10%以上増えた。山地酪農では搾乳量が減るが、オーガニック牛乳として差別化ができる。地元企業と連携し、2倍の価格ながら完売した。大学進学後は、経営を学びたい。
「オンリーワンを目指して
高見陽々樹(ひびき)=兵庫県立農業高3年
農業を新しい視点で学ぼうと、バイオを駆使した品種改良やPCR検査によるイネのDNA鑑定に取り組んだ。個人でもDNA鑑定の利用が可能になり、明治以前のように、土地や風土にかなった育種を農家ができるようになると考えた。友人と「育種研究会」を設立。全国1位の酒米・山田錦の改良に挑戦したが、実ったのはたった2粒だった。人工交配には長年の経験と技術が必要なことを痛感した。将来はもっと手軽にDNA情報を活用した「遺伝子農業」が可能になると予想。その先駆けになりたい。
「私の夢~実家の農家を復活、発展へ~
伊藤優花=岩手県立盛岡農業高3年
ピーマンとワインブドウを栽培する3棟のハウスが、小学校時代の遊び場だった。祖父母に「畑を継ぎたい」と伝えると「お前が継ぐまで頑張るから」。中2で、祖父が肺気胸になり、出荷栽培を断念。畑は更地になった。「私が絶対、またやるから」。高校で、高床式砂栽培の農家を見学した。砂を使うため汚れず、立ったまま、座ったままかがまずに作業でき、「高齢化社会での改革的な栽培だ」と気づく。「誰でも」「気軽」に就けるユニバーサルデザインのような農業を目指す。
進むべき道
武藤圭汰=福島県立修明高2年
家は繁殖農家だ。祖父母が営み、父母は会社員。兄は牛には興味がないが、自分は好きだ。昨年、祖父がひざの手術をし、家族全員で手伝い始めた。新鮮でうれしい光景だった。JAの講師から聞いたスマート畜産の発展に驚いたが、「私たちがこの地域で畜産の仕事ができるのは、ずっと守ってきた、あなたのおじいさんとおばあさんのおかげです」という言葉も聞いた。二つの目標ができた。一つは代々守ってきた繁殖農家の継続。もう一つは農村経営だ。高齢化した農家をサポートする体制をつくりたい。
日本一のきゅうり農家に
陣内力稀太(りきた)=佐賀県立佐賀農業高2年
米と麦に行き詰まった祖父が始めたキュウリ栽培。祖父は自分でハウスを建てた。そんな祖父を見た父は会社勤めをやめて、農家を継いだ。給食のキュウリを「虫みたいな味がする」という友人の言葉に衝撃を受け、日本一おいしいキュウリを作ることが夢になった。寄生虫の影響で収穫が落ちる中、学校で研究した病害虫を抑制する植物をキュウリに応用する技法と、農薬と抑制植物との併用を検討。仮説を実証するため大学農学部で研究を進めたい。「虫の味」と言った友人に、「おいしい」と言ってもらうために。
背中~家族の思いをつなぐ牛飼~
阿部聖華(きよか)=秋田県立増田高2年
家は、祖父の代から牛の繁殖肥育一貫で生計を立てている。子牛30頭を含め100頭の黒毛和種を飼う。父母が規模を拡大して6年。えさの稲わらを確保するため水田を牧草地にした。父は地域にたった一人の人工授精師で、頼りにされていたが、高校入学後の5月に急逝。4人きょうだい。長姉が大学をやめて母と牛舎を続けた。その時から、家族と一緒に酪農をしたい、と意識が変わった。姉2人は繁殖肥育一貫経営と稲作を、弟は獣医を目指す。経営規模拡大だけでなく、稲作や牧草の拡大など、地域・社会に貢献したい。父の功績を無駄にしない。
「くんまから地域の未来を考える
大石駆琉(かける)=静岡県立天竜高3年
標高600メートル。森に囲まれた「くんま」という場所に家がある。家は茶を栽培。コロナ禍は山奥にも押し寄せ、休校に。久しぶりに作葉を手伝う。家族にほめられ、やる気が出てきた。手伝う中で、地域の危機を感じた。70代の祖父が「若い衆」。集落の不便さ、茶の販売価格の低下。学校で学んでいる林業も高齢化、後継者不足が深刻だ。きこりになりたいと思ってきたが、自分一人、就業しても環境を変えることは不可能だ、と思えた。教育が大事だ。教員になり、農林業を共に発展させる仲間を一人でも増やし、恩返しをしていきたい。
「放置竹林の問題からの新たな資源へ
長門杏奈=長崎県立諫早農業高2年
日本の放置竹林は、大きな社会問題だ。九州全域で問題に取り組んでいる企業の代表者と意見交換し、同社が製造している「竹パウダー」の有効活用を考えた。竹の成分は米ぬかと似ていることを調べ、菌床栽培の栄養源にできないかと仮説。実験の結果、2倍のスピードでシイタケの増殖を確認した。品質も合格。菌床栽培農家で実証実験を実施。ハウス栽培でも可能なことが分かった。県、環境省、学会で研究成果を発表。九大教授から「放置竹林解決の糸口になる」との評価を得た。年間166万リットルの竹の再利用につながる。