「第4回毎日地球未来賞」 受賞記念講演
地球規模の課題である食料・水・環境の分野で問題解決に取り組む個人や団体を顕彰する「第4回毎日地球未来賞」(毎日新聞社主催、内閣府など後援、クボタ協賛)の表彰式と記念講演会が、大阪市北区の毎日新聞大阪本社オーバルホールであった。毎日地球未来賞に輝いた青森県南部町の県立名久井農業高校「TEAM FLORA PHOTONICS」(チーム・フローラ・フォトニクス)の木村亨顧問(57)▽クボタ賞に選ばれた高知県大月町のNPO法人「黒潮実感センター」の神田優センター長(48)、山口県宇部市のNPO法人「学生耕作隊」の高田夏実理事長(24)▽次世代応援賞に選ばれた広島県神石高原町の県立油木高校「ミツバチプロジェクト」の宮本紀子・指導教諭(41)――らによる講演内容を紹介する。【文・遠藤孝康、向畑泰司、写真・小松雄介】
毎日地球未来賞
緑が心支える–青森県立名久井農業高校 「TEAM FLORA PHOTONICS」
【講演者】佐々木愛さん、葛形小雪さん、顧問・木村亨さん
2009年に男子生徒5人が作ったチームです。フローラは花、フォトニクスは光工学。花に光を当てればどうなるのかという研究に取り組んできました。今回の受賞につながったのは、サクラソウの保全活動や塩害土壌の再生の活動です。
青森県八戸市の種差(たねさし)海岸では野生のサクラソウが自生しています。2011年の東日本大震災では海岸も津波に襲われ、1カ月後の調査では土壌の塩分濃度が非常に高くなっていました。海岸を管理する県の許可を得て、自然保護団体の方々と一緒に人工授粉をし、できた種を学校に持ち帰りました。
活動の様子は新聞やテレビで報道され、学校には励ましの手紙が届きました。当時はプレッシャーもあったと思います。12年に花が咲き、メンバーは初めてほっとした表情を見せました。
種差海岸はその後、国立公園となり、観光客の方も多く来るようになりました。観光資源という要素も加わり、チームではサクラソウの自生地の長期保存という視点で新たに取り組んでいます。
本校には「緑育心」という校訓があります。緑は心を育てるという意味です。緑を大切にし、緑で人の心を支える。そうした活動の結果として、生徒たち自身に震災直後、花で被災地の方を元気にさせたいという気持ちが生まれたのだと思います。今後もいろんなところで皆さんの役に立つ活動を続けていきたいと思います。
クボタ賞
「里海」持続可能に–NPO法人「黒潮実感センター」
【講演者】センター長、神田優さん
高知県の西端にある柏島が活動場所です。日本で最も多い1000種類を越える魚が生息する豊かな海に恵まれ、漁業と海洋レジャーで有名になりました。この島全体を、そこで生活する人々の暮らしも含めて博物館としてとらえようと考え、始めたのが黒潮実感センターの活動です。
1997年から島で暮らすうち、多くの課題が見えました。一つが海洋レジャーと漁業の共存の問題です。ダイビングが盛んになった時期に高級海産物のアオリイカが捕れなくなった。イカの産卵場所である藻場が減っていることが調査で分かり、ダイバーと漁業者の共同作業でイカの人工産卵床を海底に設置する取り組みを始めました。今、ダイバーと漁師の関係は円滑になってきています。
ベースになるのは海洋生物の調査研究です。その成果を、子供たちへの環境教育やエコツアーを通じて伝え、島の良さを多くの方に知ってもらいたい。ゴールは持続可能な「里海」。豊かな海と人の営みが両立する風景を残していきたいと思っています。
クボタ賞
安心安全な暮らし創出–NPO法人「学生耕作隊」
【講演者】理事長、高田夏実さん
山口県で、高齢化した農家を手助けしようと2002年に学生たちが設立した団体です。最初に茶の耕作放棄地の再生と商品化から始め、今は米やミカン、ブルーベリー、野菜の生産販売をしています。専門的な知識を持っているメンバーはおらず、地域の人たちの技術や知恵を教えてもらい、一から作り上げる形でやっています。商品はトラストといって、年間1万円で購入予約を受け付け、3回から4回届ける仕組みを採り入れています。
大事にしているのが暮らしの部分です。東日本大震災をきっかけにライフスタイルを見直そうと、茶畑の近くに住み、生活しながら事業をすることになりました。栽培した米や野菜、果物を食べ、エネルギーはソーラーパネルを並べてまかなっています。家も自分たちで建てています。
アジアの若者たちとも行き来したり、情報交換しながら、農業を中心に活動しています。「こういう暮らしって豊かだよね。安心安全だよね」と思ってもらえるモデルを作り、地域の問題解決につなげたいと思っています。
次世代応援賞
蜂 広げる輪–広島県立油木高校「ミツバチプロジェクト」
【講演者】宮本麗さん、村竹由梨さん、指導教諭・宮本紀子さん
過疎化と高齢化が進む地元の活性化のため、かつて盛んだった養蜂の復活を目指しました。
ミツバチの飼育を始めて、季節ごとの飼育方法をマニュアルにまとめました。住民の方々も協力してくださるようになり、5ヘクタールの耕作放棄地をレンゲ畑に再生することができました。「ミツバチの里」として地域の交流の場が生まれ、蜂蜜や花畑が新たな観光資源になるなど活動は町全体に広がっています。
交流の輪は広がり、東日本大震災で被災したイチゴ農家に、飼育したミツバチを届ける被災地支援も毎年続けています。
小さなミツバチが取り持ってくれた人々との縁を、これからも大切にしていきます。
(2015年3月22日大阪朝刊)
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