ひと:佐伯昭夫さん=第6回毎日地球未来賞を受賞した「シャンティ山口」事務局長
「自分に何ができるのか。いても立ってもいられなくなった」。海外ボランティアと無縁だった30年前、タイのカンボジア難民キャンプを訪問した日本人僧侶から、病気や栄養失調で毎日数百人が命を落とす惨状を聞いた。インドシナ半島の歴史を調べ、ベトナム戦争やラオス内戦などの影響でタイ北部の山岳地帯で厳しい生活を送る少数民族の存在を知り、支援に取り組む「シャンティ山口」に参加した。
県職員時代は有給休暇を活用し、年3回は少数民族の住む村を回った。資金は行政や企業の助成金が中心だが、「この一杯で彼らに何がしてあげられるか」と自問し、酒の付き合いを減らして活動費に充てる。
主要産業がなく、貧困にあえぐ少数民族を支援しようと現地に学生寮を建設した。その寮に住んだ女子生徒の父親が、覚醒剤売買に関与したとして逮捕されたことがある。学費のためだった。大学で日本語を学び、両国の橋渡し役になることを夢見ていた生徒の涙に胸を打たれ、約20万バーツ(約60万円)を個人的に支援。タイの日系企業で働く女性は、佐伯さんを「日本のお父さん」と呼ぶ。
定年退職後、1年の半分は現地へ。手洗いの奨励やタイ語の指導など地道な活動が実を結びつつある。「金や物を渡すだけでは支援とは言えない。モデルを示して、自らの意思でやってもらうことが大切」。100回超の訪問でそう実感している。
<文・津久井達 写真・幾島健太郎>
人物略歴
山口市出身。1963年に技術系職員として山口県に採用され、発電所やダムの建設に携わった。2人の孫がいる。
(2017年2月14日朝刊掲載)
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